中国で導入が進む「オンライン診療」と「オンライン処方箋」【山谷剛史の中国から学ぶITトレンド】

 

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鎮江での処方箋の当日配送(出典:揚子晩報

中国では、新型コロナウイルス感染拡大が本格的に広まり始めた2020年2-3月に、さまざまなネットサービスが登場しました。その多くはすでに完成されていたサービスで、非常事態に各地方政府や病院がネットサービスを導入することで、医療のオンライン化を急速に進めました。家からオンラインで病院側と相談できる仕組みを整備することで、外出による感染リスクの軽減を目指したのです。

中国の各地域に「雲医院(クラウド病院)」を提供した、東軟熙康(XIKANG)を紹介しましょう。東軟熙康は、湖北省宜昌市にてクラウド病院プラットフォームを急ぎ構築しました。当初は、発熱用の診察グループを構築。風邪っぽい症状について、それが風邪なのか新型コロナウイルスに感染したのかをオンラインで診察できる環境を整えました。次に各医療機関と提携し、内科、中医学科、産婦人科、小児科などの受診を可能にしました。最終的には28カ所の病院の854人が対応し、57,248件のオンライン診察を処理できたと報じられています。

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共に宜昌市の雲医院(出典:掌上遠安

 

同社のオンライン診療では各科ごとにチャットルームが用意され、テキストと画像・電話・ビデオチャットでやりとりできるようになっています。たとえば内科を選択すると、オンラインに対応する医者一覧が表示され、医者と相談方法と予約時間を選べます。そして表示された診療代で問題が無ければ、予約して完了です。

概ね他の企業でも同様のサービスが提供されていますが、宜昌市のオンライン病院ならではのサービスとして、デジタル保険証を活用したものが提供されました。デジタル処方箋を宜昌市に展開する薬局チェーンに送信し、まとめて料金をキャッシュレスで受領した上で、薬局が家まで配送するか、患者が薬局まで行って受け取るかが選べたのです。

宜昌市のクラウド病院プラットフォームを活用していた医師は、当時の取材で「80%は大事ではない相談だった」「医療スタッフの発熱に関する診察ストレスを軽減することができた」と語っています。

この「オンライン診療+処方薬の配送のサービス」は、各地方の状況にアレンジされ現在も続々とローンチされています。上海市では、5月に上海市徐匯区中心医院(公立病院)がオンライン化しました。

午前中にキャリア3年以上の医者がオンラインで診療と処方を行い、当日中に患者のもとに処方薬が到着するようになりました。また、11月には製薬大手上薬集団によるオンライン薬局と地元の龍華医院などを繋ぎ、診療から処方薬の配送まで行うサービスがスタートしたのです。

 

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鎮江市でオンライン化を行った益薬(出典:上海医薬

オンライン医療のテスト都市に指定されている江蘇省鎮江市では、今年1月、江蘇大学付属医院互聯網医院や鎮江市第一人民医院といった医療機関に加えて、中国郵政と提携して当日診療からの薬の当日配達サービスを実現しました。

報道によれば、鎮江市では毎日処方箋をもらうために病院に訪れる慢性病患者は約600人とのこと。中高年が処方箋をもらうために通院することは人が密集しやすくリスクが大きいので、オンライン化によって中高年が病院に行って発生するリスクを減らすことを目指しました。

「慢性病患者の90%は、午前中にオンラインで診察を受けると、午後4時までに薬が届く」と病院はコメントしています。

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鎮江での処方箋の当日配送2(出典:揚子晩報

新型コロナウイルスが猛威を奮い始めた当初は、新型コロナウイルス感染の疑いがある患者への診療対策に活用されました。現在は慢性病患者対策としても、オンライン病院とオンライン薬局は活用できているというわけです。ただし、各地の病院や薬局をオンラインで繋げるのは、中国でも手間がかかるポイントのようです。

また、リアルショップの薬局をニューリテールする事例がわずかながらあります。河南省鄭州では阿里健康による「支付宝(アリペイ)未来薬店旗艦店」という薬局のニューリテールを謳った店が、地元のチェーン店「張仲景大薬房」と提携して誕生しました。

 

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支付宝(アリペイ)未来薬店旗艦店

この店舗ではニューリテールのスーパー「盒馬鮮生」のように、顔認証支払い対応のスマートレジや薬の自動販売機を用意しているのが特徴です。また店内にタブレット端末が置かれており、リモートでおすすめの薬のアドバイスがもらえるほか、信用スコア「芝麻信用(ゴマ信用)」で血圧計などの各種医療機器をデポジット不要で日割りレンタルできます。芝麻信用でスマートフォンをレンタルできる仕組みはスマートフォン販売店でも導入されており、これの医療機器版ともいえるでしょう。

日本では「新型コロナウイルス感染の第3波が猛威をふるい、医療リソースを切迫している」と報道されています。また第3波が終わったところで、しばらく心配の種はなくなりません。中国では医療のオンライン化によって慢性病患者を通院から在宅に変えたことで、医療スタッフのストレスが軽減しました。

日本には日本の習慣もありますが、ソリューションの積み重ねにより、医療環境が改善した実績があります。必要であれば、同様の仕組みの導入を検討したいところです。

 

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筆者プロフィール

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山谷 剛史(やまや たけし)

1976年東京生まれ。東京池袋近辺、福岡市、中国雲南省昆明育ち。フリーランスライター。
2002年より一貫して中国やアジア各国のITやトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。

主な著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 (星海社新書)』『ゼロからはじめる 海外旅行でスマホ活用 スマートガイド』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち (ソフトバンク新書)』など

公式プロフィール:https://about.me/yamayat
Twitter:https://twitter.com/YamayaT