試供品の自販機「天猫U先」を活用した化粧品ブランドのニューリテール事例(山谷剛史の中国から学ぶITトレンド)

中国の各都市には、無数のショッピングモールがある。内陸の省都を定点観測していた私からすれば、ショッピングモールがなかった10年前15年前と比べると買い物環境はかなり改善された。中でも都市のショッピングモールでは、沿岸部でもおなじみのブランドのチェーン店舗のほか、ニューリテール(新零售)関連の店や自販機も置かれていて、トレンドに敏感な現地の若い消費者がやってくる。

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中国市場というとオンラインでの販売が注目されがちだが、オフラインとて無視はできない。たとえばスマートフォンほかスマート製品で知られる「小米(Xiaomi)」は、オンラインだけでなくモールに直営店「小米之家」を展開し、オフライン派の消費者を呼び寄せ、中国主要スマホメーカーの1社という座をキープし続けている。

また、オンラインのつまみブランド「三只松鼠」も中国各地の有名モールにリアル店舗を展開している。アフターコロナになってもその状況は変わらず、「アフターコロナのオフライン販売」というワードで検索すると、中国各地で様々なキャンペーンが行われているのが見て取れる。

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天猫U先のサンプル販売機

リアル店舗を展開すればブランドの認知度は高まる。とはいえ、モール内の都合のいい場所でテナントが空いていることは少ない。それにテナントを借りるにしてもテナント料は高くリスキーだ。近年、食玩のようなキャラクターグッズのコレクションBOXを販売する「POPMART」をはじめとしたブランドが、グッズを販売する自動販売機を展開している。

中国メディアの記事によれば、POPMARTいわく、自動販売機を置いて、そのモールに来る人は買うかどうかを確かめて、もし販売状況がよければテナントを借りることを本格的に検討するそうだ。中国のモールに行くと、日本でも飲料以外の自動販売機を置いたほうがいいのではないかと思い知らされる。

アリババの天猫も今回紹介する自動販売機「天猫U先」をモールに展開している。これは化粧品・日用品・健康食品・おかし・ベビー用品などのサンプル品を販売する自動販売機であり、アリババのニューリテールサービスのひとつだ。

オンラインサービスは2017年から、自動販売機は2018年から登場していて、多くのニューリテールサービスがこの数年で終わる中で、今も企業と提携し話題を出し続けていて、筆者がモールでこの自動販売機を見るとよく利用されているのを見る。話題にこそあまりならないが、地味ながらも人気であり続けているサービスだ。

またアリババは中国各地のモールなどにベビールーム「天猫智能母嬰室」を展開していて、その中でも天猫U先の自動販売機が設置されているという。その自動販売機では紙おむつや粉ミルクのお試しパッケージが売られていることから、ベビー用品に特化した天猫U先といえるだろう。

 

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手机淘宝アプリの天猫U先ページ

天猫U先の魅力はその値段だ。サンプル商品ということで、無料同然の1分(0.01元)で買える。買うには、手机淘宝のアプリからQRコードをスキャンして、1分を支払うだけだ。購入すると、購入した商品のブランドの天猫旗艦店のファンとして登録される。

つまり体験してもらうだけでなく、オンラインショップの会員にも自動でなってくれるわけだ。特に2大ECセールの6月18日と11月11日を狙って、その1、2か月前に天猫U先で試供品を使って会員を集めようとする企業の動きは例年ニュースで報じられる。

経済観察報によれば、去年の6月18日セール前は、(オフラインとオンラインの)天猫U先で、ネスレやSK-Ⅱをはじめとした380のブランドがサンプル品を計1000万個販売したという。中でも中国化粧品ブランド「Pechoin」はこのとき6万5000人の旗艦店ショップのファン会員を得ることができたそうだ。

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天猫U先と資生堂のキャンペーン

今年の6月18日のセール前では、資生堂がキャンペーン「資生堂超級派」を仕掛けたことが報じられている。今年4月の鳳凰網の記事によると、資生堂は上海と杭州の4店舗に、計10台の天猫U先を置いた。オンラインの淘宝網上でもキャンペーンを実施し、結果的に18万のサンプルが購入され、そのうち新規顧客は全体の85%となった。またオンラインとオフラインのキャンペーンにより、顧客層が可視化でき、販売数が大幅に上昇したという。

オンラインとオフラインの融合によって生まれた新しい買い物スタイルが、今もどんどん中国で取り入れられつつある。アリババの天猫U先サンプル自動販売機などが良い例だ。今後も、進化していく小売業界に注目したい。

  

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筆者プロフィール

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山谷 剛史(やまや たけし)

1976年東京生まれ。東京池袋近辺、福岡市、中国雲南省昆明育ち。フリーランスライター。
2002年より一貫して中国やアジア各国のITやトレンドについて執筆。中国IT業界記事、中国流行記事、中国製品レビュー記事を主に執筆。

主な著書に『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 (星海社新書)』『ゼロからはじめる 海外旅行でスマホ活用 スマートガイド』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち (ソフトバンク新書)』など

公式プロフィール:https://about.me/yamayat
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