
中国最大のECモール「タオバオ(淘宝網)」がオンラインモールの出店者集めて行うリアルイベント「Taobao Maker Festival(淘宝造物節)」(9月13日〜16日開催)を見てきた。そこではOMO (Offline Merges Online) の取り組みを垣間見ることができた。
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オンラインの作法をオフラインに持ち込むOMO
OMOは「オンラインとオフラインの体験を統合する」マーケティング手法のことを指している。スマートフォンとモバイルインターネット接続が普及したことにより、店に来る多くの客が、陳列された商品を手に取りながら手元のスマートフォンで口コミを検索したりオンラインショッピングを利用したりするようになった。
一方、SNSやオンラインショッピングで見かけた商品が気になって実店舗に足を運ぶケースも多く、店頭では「Instagramで話題の◯◯」などネットの評判をもとにした宣伝活動が行われることも増えてきた。
この「オンライン(ネット通販)とオフライン(実店舗)の体験を融合させる」動きがOMOであり、特に直販型ブランド(D2C: Direct to Consumer)や、試着ニーズがあることからネットで売りにくい衣類などの分野で注目されている。
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デジタルマーケティングとして捉える日本、ブランドと顧客体験向上を狙う中国
日本におけるOMOやO2O(Offline to Online)の事例では、オフラインの店舗(実店舗)においてオンラインの店舗と共通化したID管理システムやアプリの配布を通じて顧客情報の精度向上と、メールマガジンやアプリへのプッシュ通知などの配信などを通じたマーケティングチャネルの強化が挙げられることが多い。
顧客へのメリットとして語られることは少なく、オフライン店舗が中心であった既存の小売チャネルの販売力低下をデジタルマーケティングで補おうとする節がある。
中国におけるOMOの実態はそれとは異なり、ブランドと顧客体験の向上を狙ったオンラインとオフラインの統合が目されている。例えば、前回の拙稿で取り上げたスマートスーパー「盒馬」ではオンラインショップが苦手とする「新しい商品との出会い」を実店舗で演出するとともに、購入フローにおいてはオンラインのプロセスを導入することでリピート購入が簡単になり、顧客の支持を集めることに成功している。
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オンラインショップのオフラインブースで「ライブ感」を打ち出す
今回のTaobao Maker Festivalでは自社のブランドでオリジナルの商品を持つマーチャントの出展が目立っていた。例えば中国の伝統的な衣装である漢服を現代風にアレンジしたアパレルブランドではブティックさながらに並んだ衣装から実際に試着できる。
一帯では漢服を着用した店員やインフルエンサーが歩きまわって雰囲気を盛り上げており、服だけでなく壺などの関連するインテリアまでトータルで雰囲気を盛り上げている。その空気感をネット越しに伝えようと、インフルエンサーや網紅(ワンホン)が会場から生中継で配信している姿も多く見られた。
中国の伝統衣装「漢服」を扱っている商店。試着して近辺を歩いているひとも見受けられる。 会場内にはネット配信用のブースが設けられ、網紅(ワンホン)が商品の宣伝などを配信できるようになっている。 また、ドールのように趣味性が高いものでは、製作の様子を実演しており、興味を持った人が足を止めたり写真を撮ってSNSに投稿したりしている様子が見受けられた。
こうしたスマートフォンやパソコンの画面だけではブランドの世界観を打ち出し、ソーシャルに広めることが難しい分野を中心に、Taobao Maker Festivalの出展者は趣向を凝らしたブースで勝負を仕掛けてきている。
美少女キャラクターのドール(人形)を売っているブース。左手前に座っている人が実際に人形に瞳を入れている。 いずれも気に入ったモノがあればQRコードを経由してタオバオのオンラインショップにアクセスし、購入できるようになっている。オフラインのイベントであっても購入のフローはタオバオで統一しているため、購買の履歴は出展者のマーチャントアカウントに紐付く。
そのため、顧客がブースから離れてからもタオバオ内のメッセージ機能やタイムラインなどの機能を用いて継続的に顧客にアプローチすることができるのだ。
室内で育てるために特殊な加工がなされた植物を販売する店。 実際に買う場合はタオバオのモールにアクセスする。 -
「今僕らが買えるテクノロジー」を並べることの意義
いわゆる見本市では、法人間取引が主体であり、ふらっと遊びにいった個人が買えるようなものではなかった。またCESやCEATECなどのテクノロジーショーでは自動運転や近未来のテレビなど、コンシューマ向けの展示であっても技術デモの要素が強く、来訪者が衝動的に購入するようなことはほとんど想定されていない。
これに対してTaobao Maker Festivalは「タオバオで実際に購入できるモノを集めたショー」という位置づけになっており、ブースに掲示された店舗名を手元のタオバオのスマホアプリで検索すれば、大抵購入できるようになっている。ブースのデモをみて購買欲を刺激された顧客は、持ち帰りの荷物や手持ちの現金を心配せず、その場で注文することができる。
腰につけたコントローラーでロボットを操り対決できる玩具(GJS ROBOT) オンラインショップの出展者にとっても、実際に商品に手をとっている様子を目にし、顧客と会話することができるのは大きな魅力であり、今後の商品開発に役立てることができるであろう。まさにオンラインショップによるリアル即売会と言えよう。
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オンラインの魅力を高めるためのオフライン施策
Taobao Maker Festivalは、いずれの展示も作り手である売り手によって現実世界にブースを構えており「オンラインで立ち上げたブランドをブース出展することで世界観を補強する」という趣が強かった。日本でもD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる、生産元によるオンライン中心の直販モデルが注目を集めており、ブランド認知と話題性づくりのためにオフラインの期間限定ショップ、いわゆるポップアップストアを開設する事例が増えてきた。
D2Cではテクノロジーによって個々の顧客にあわせたオンラインでの購買体験を提供できることを強みとしていることが多いので、ポップアップストアの運営においてもTaobao Maker Festivalで見たような「オンラインショップの延長線」という視点で構築することがよいのではないだろうか。
人工豚肉を手がけるOmniporkの試食ブース。こうした食品スタートアップにとってもリアルの接点はとても大事だ。 オフラインイベントのブースを活用することで、オンラインだけでは売りにくい商材やオンラインだけでは確立しにくいブランドに商機を見いだすことができるのではないだろうか。
筆者プロフィール
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澤田 翔(さわだ しょう)
1985年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部在学中からエンジニアとして複数のITスタートアップに立ち上げからEXITまで携わり、その経験を生かして2017年より独立。世界の決済サービスやニューリテール(小売業のIT支援)に明るい。
現在は中国・深圳市に住み、エンジニアの目線から現地のデジタルイノベーションの生態系を研究し、その成果を経営アドバイスから設計レビュー、プロトタイプ開発といったかたちで日本の事業会社やスタートアップ、コンサルティング会社などに還元している。インターネットの社会実装をテーマにした「インターネットプラス研究所」を2018年に設立。
Twitter:https://twitter.com/shao155
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