4月17日から18日にかけて、中国深センにて「GIIC(Global Innovation Impact Conference)」が開催されました。
GIICには中国国内外からスタートアップ・イノベーション・エコシステム領域の各リーダーが集結し、「大企業がもつ産業資源を活かしたスタートアップ支援」と「スタートアップのアイデアと活力を活かした大企業イノベーション」をテーマとして、数多くの講演やパネルディスカッションが実施されました。
GIICにおいては弊社「匠新(ジャンシン)」が日系関連を取りまとめ、日系企業から約70名の方にご参加いただきました。
また日系企業が中国で現状どのようにイノベーションに取り組み、そして今後いかに中国や深センのエコシステムを活用してくかについて議論するパネルディスカッション「新しい時代の波、伝統企業のイノベーションの道」のセッションも実施され、私田中が本セッションのモデレーターとなって以下の日系企業6社に当日ご登壇をいただきました。
パネルディスカッション登壇企業
- 京セラ(中国)商貿有限公司 デザインセンター&イノベーションセンター 総監 鹿取直広氏
- 富士フイルム(中国)投資有限公司 イノベーションセンター 高機能材料 統括部長 内山圭司氏
- 広州伊藤忠商事有限公司 深圳分公司 総経理 石賀隆彦氏
- みずほ銀行(中国)有限公司 深圳支店 支店長 波多野充彦氏
- パナソニック株式会社 ライフソリューションズ社 ライティングR&Dセンター 光イノベーション創生部 部長 博士(工学) 野口公喜氏
- 日本貿易振興機構(JETRO)広州事務所 所長 清水顕司氏
京セラは深セン市龍崗区にイノベーションセンターを開設
京セラはイベント会場の開催場所でもあった深セン市龍崗(りゅうこう)区に258.4平米の「京セラ(中国)イノベーションセンター」をちょうど4月に開設したばかりで、まさにこれから深センの現地企業とのオープンイノベーションを加速させていくところとのことでした。
京セラの技術リソースを現地のスタートアップ企業などに提供し、イノベーションへの取り組みや新規ビジネスの創出に繋げていきたいとのこと。
ちなみにこの龍崗区は深セン市の中でも発展が非常に目覚ましく、深セン市の区毎のGDPランキングにおいて2015年には南山区、福田区、宝安区に続いて4位であったものが2016年には宝安区を抜いて3位へ、2017年には福田区をも抜いて2位へと年々順位をあげて来ています。
いずれの区も高いGDP成長率を誇っていますが、龍崗区は特に2017年から2018年にかけてはGDP成長率11.0%を達成しており、その発展の勢いはとどまることを知りません。
富士フイルムはイノベーションで「第2の創業」に成功
話を日系企業のセッションに戻します。富士フイルムからはもともとのコア事業であったフイルム事業がデジタルカメラの出現によって2000年以降に大きく打撃を受けて企業存続が危ぶまれるほどであったということ、そしてそのような危機を迎えている期間に経営トップが事業多角化の意思決定をして見事に事業ポートフォリオの転換に成功したことの紹介がありました。
今ではフイルム事業はグループ全体の売上の1%にも満たないくらいに縮小しており、フイルム事業で培った光学技術等を医療や高機能材料などの分野に応用させ、イノベーションに取り組むことによって「第2の創業」を成功させています。
また2016年に上海でイノベーションセンターも開設しており、中国においてもイノベーションの取り組みに力を入れていきたいとのことでした。
EV領域での次世代ビジネス開発に積極的な伊藤忠
伊藤忠からは北米におけるスタートアップ企業との連携による次世代ビジネスの開発の成功例が多く積み重なってきているということ、そしてそれと同様の取り組みを中国でも今後増やしていきたいということの紹介がありました。
また、EVを含めたモビリティの分野では中国が世界でも先行していることから、中国の新興EV関連ベンチャー「奇点汽車」や「地上鉄」に投資を実行しており、彼らと共に次世代ビジネスの開発をまさに進めているとのこと。
地域カンパニー制により中国でのイノベーションを加速するパナソニック
パナソニックはこれまでは日本を本社として事業部ごとにグローバルで縦割りだった組織を中国とアメリカについては地域カンパニー制度を導入。
2019年4月から「中国・北東アジア社」として中国マーケットにおいては日本本社とは独立して独自に事業展開をしていくとのこと。
また、北京と蘇州にそれぞれイノベーションセンターと研究開発センターを設置しており、中国現地でより積極的にイノベーションへ取り組んでいくようです。
みずほ銀行、JETROは日系スタートアップの中国進出も支援
みずほ銀行とJETROはいずれも日系企業が日中でイノベーションに取り組むにあたってのサポートをする役割を担っており、日系大企業が中国スタートアップ企業と一緒に組んでイノベーションへの取り組みを行うという文脈の他に、日系スタートアップ企業の中国への展開支援も実施しているとのこと。
実際にみずほ銀行においては日系スタートアップ企業の深センへの受け入れなどを実施し、またJETROにおいては2017年からスタートしたJIP(JETRO Innovation Program)というプログラムを通じてこれまで35社の日系企業の深センエコシステムへのアプローチをサポートしたとのことです。
日系企業の中国とのイノベーションの取り組みはまだ始まったばかり
一方で深センにおける欧米企業の取り組みに目を向けてみると、GIICにも登壇していたジョンソン・アンド・ジョンソンは2014年から既に中国上海にイノベーションセンターを設立し、中国におけるイノベーションへの取り組みを早くからスタートさせていました。
それに比べて日系企業は中国とのイノベーションの取り組みについてはようやくスタート地点に立ったばかり。
中国が様々な分野で世界をリードしていこうとしている中、日系企業はこれまでとは異なる中国企業との新たな協業のあり方を早急に模索して確立していく必要があります。
筆者プロフィール
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田中 年一 (たなか としかず)
匠新(ジャンシン)www.takumi.ltd - CEO
XNode www.thexnode.com - マネージングディレクター - 日中でのスタートアップおよびイノベーション連携を推進する唯一のアクセラレーター「匠新(ジャンシン)」のCEO。2015年に上海で匠新を立ち上げ、2018年には深センと東京にも拠点を設立。中国の国際的なアクセラレーター「XNode」のマネージングディレクターも兼務。
- 創業以前はデロイトトーマツの東京および上海オフィスにてM&Aアドバイザリーや投資コンサル、ベンチャー支援、IPO支援、上場企業監査等の業務に従事。東京大学工学部航空宇宙工学科卒、米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計、税務)
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