中国製造業のAI利活用事例(業界地図からソリューションまで)(唐徳権の中国デジタル事情)

AI(人工知能)は新しいイノベーションエンジンとして、製造業・リテール・ファイナンス・都市管理・教育・カスタマーサービスなど、ありとあらゆる業界に変革をもたらしはじめています。今回は中国の製造業におけるAIの利活用について、最近の状況を紹介いたします。

 

■製造業におけるAIの利活用シーン

中国の製造業界では、AI技術が技術基盤に利活用されています。その技術基盤とは、品質検査・作業自動化・生産プロセス最適化・予測型メンテナンス・産業用スマートロボットの大きく5つに分類できます。

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この5つの技術基盤において、AIがどのように利活用されているか見ていきましょう。

・品質検査:画像センサーおよびマシンビジョン技術を生かし、品質の安定化とバラツキの低減を図っています。製品・部品の欠陥・異物・瑕疵・傷・汚れ・ヒビ・割れ・シミ・サビ・色むら・突起・バリ・バラツキなどを発見します。

・作業自動化:マシンビジョン技術を生かし、さまざまな作業を自動化します。たとえば、位置検出・サイズ計測・個数カウント・バーコード読み取り・テキスト認識・ばら積みピッキング・ソーティング・積み降ろし・パレタイジングなど。

・生産プロセス最適化:生産設備・原材料・作業員・生産プロセスなどのMES(製造実行システム)データをリアルタイムに統合し、人員(工数)・材料・エネルギーの投入量・生産量などを予測し、設備の稼動計画、人員の作業計画を最適化します。

・予測型メンテナンス:設備にセンサーを取り付けて稼働状況をモニタリング。これにより、故障発生時期の予測・故障原因の学習・分析などを行い、稼働停止時間を最小限に抑えます。

・産業用スマートロボット:溶接・塗装・組み立て・仕分け・運搬などさまざまな利用シーンに向けて、グラインダ・バフィング・ドリリング・ミーニング・パレタイジングなどのロボット、CNC(Computerized Numerical Control:コンピュータ数値制御)、工作機械などを利用して、生産・物流のインテリジェンス化を実現します。

 

■中国製造業におけるAI利活用業界地図

中国製造業界では、AIの利活用内容から見ると、製造業に向けた総合的な技術基盤、品質検査・作業自動化ソリューション(マシンビジョン)、生産・メンテ最適化ソリューション(分析・予測AI)、産業用スマートロボットソリューション(ロボット&CNC工作機械)などに分けられます。

 

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・総合的な技術基盤(トータルフレームワーク)
総合系技術基盤は、特定の技術領域に特化せず、製造業に向けた基礎的な技術基盤を提供します。たとえば、アリババグループの「ET Industrial Brain」、ファーウェイの「Industrial Intelligence Twins」、ハイアールのマス・カスタマイゼーション・ソリューション・プラットフォームである「COSMOPlat」、用友の産業インターネットプラットフォーム「精智」などが挙げられます。

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・品質検査・作業自動化ソリューション(マシン・ビジョン)
品質検査・作業自動化ソリューションは、製造業のインテリジェンス化に欠かせない存在です。製品や部品の欠陥検査・ソーティング・積み降ろし・パレタイジングなどに利用されます。マシンビジョンに特化した中国ベンダーは、高視科技(GOVION)、阿丘科技(Aqrose Technology)、梅卡曼徳(Mech Mind)、精鋭視覚(RISEYE)、大恒図像(Daheng Imaging)、矩視智能(NeuroBot)などが挙げられます。

・生産・メンテ最適化ソリューション(分析・予測AI)
生産・メンテ最適化ソリューションでは、生産設備・原材料・生産プロセス・メンテナンスなどのデータをリアルタイムに統合。生産・メンテの状況をモニタリングし、最適化サービスやソリューションを提供します。
産業データ分析、予測AIに強い会社がメインであり、璞華ビッグデータ(Purvar Data)・創新奇智(AInnovation)・樹根互聯(RootCloud)・航天雲網(CASICloud)・東方国信(BONC)・聯智科技(United AI)などが挙げられます。

・産業用スマートロボットソリューション(ロボット&CNC工作機械)
産業用スマートロボットソリューションは、産業用ロボットやCNCなどがメイン。産業用ロボットメーカーの新松(SIASUN)・埃夫特(EFORT)・埃斯頓(Estun)・広州数控(GSK)といった「国産ロボットの四小龍」が挙げられます。

 

ここからは代表的な会社とそのソリューションについて紹介します。

 

■Alibaba Cloud「ET Industrial Brain」(ET・インダストリアル・ブレイン)

製造業向け総合的技術基盤といえば、アリババグループが提供するクラウドサービスAlibaba Cloudの「ET Industrial Brain」がよく話題になります。

産業問題・都市問題・環境問題・社会公平問題など社会とビジネスにおける難題を解決するための総合的なAIプラットフォーム「ET Brain(Evolutionary Technology Brain)」を製造業に特化したもので、AIで製造業の課題を解決するソリューションです。

「ET Industrial Brain」は、製造におけるありとあらゆるデータ(環境・作業員・設備・科学技術・プロセス・ウェアハウスなどに関するデータ)を収集し、データ処理のアルゴリズムに基づき、主にセンシング(マルチ・ディメンション・センシング)、意思決定(全方位的洞察)、判断(リアルタイム・ジャッジメント)、学習(持続的進化)といった機能を持っています。複雑な環境において、最適な意思決定を支援します。

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【画像出典】Alibaba Cloud(jp.alibabacloud.com)

「ET Industrial Brain」は、エネルギー・化学エンジニアリング・重工業などさまざまな領域の企業に導入されており、企業の業務に役立っています。たとえば、中国最大のタイヤメーカーである中策ゴム(Zhongce Rubber)では、ゴム製造のコア段階であるゴム混合工程で、原材料と生産環境がエネルギー消費と不良率に大きな影響を与えることが判明しました。

その結果を受け、全体の生産性や生産コストを左右する状態で「ET Industrial Brain」を導入。ゴム製造プロセスに適用し、混合プロセスで生成されたリアルタイムパラメーターデータからトレーニングデータを構築。デシジョンツリーモデルを確立し、最適な処理パラメーターを推奨することに。

「ET Industrial Brain」導入の結果として、ムーニー粘度(重要なゴム混合パラメーター)の低減・混合時間の短縮・混合温度の低下など、混合プロセスの最適化を実現。これによりエネルギー消費が大幅に削減され、コンプライアンス率が5%向上しました。

今現在、「ET Industrial Brain」は、サービスプラットフォームとしてサービスプロバイダーに公開されています。データファクトリー・アルゴリズムファクトリー・可視化ツール・AI技術サービス・ナレッジグラフツールなどが提供されています。

 

■高視科技(GOVION)

マシンビジョンソリューション領域の代表的な会社として、高視科技(GOVION)が挙げられます。高視科技は、製造業向けマシンビジョンに特化したAI技術ソリューションプロバイダーであり、欠陥の検査・分割・分類・追跡・生産プロセスの最適化などに取り組んでいます。

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【画像出典】高視科技のウェブサイト情報をもとに筆者作成

・goEyes
画像処理ベースのマシンビジョンプラットフォームであり、検査(製品正面および内部欠陥の位置特定)、欠陥検査(カメラ較正、視覚誘導、サブピクセル抽出・適合など)、輝度と構造設計(利用シーンに合わせた輝度設計)、識別(QRコード・OCRの読み取り・識別)などの機能をもちます。

・goBrain
深層学習を生かした欠陥検査システムであり、データプラットフォーム、モデルトレーニング、モデルデプロイメントを含みます。欠陥分割(欠陥範囲の特定)、欠陥検査(欠陥の摘出)、欠陥分類(OK・NGなどの判断)の機能をもつのが特長です。

・goLink
製造におけるすべての要素、フルプロセスをモニタリングするシステムであり、リアルタイム情報の可視化、設備モニタリング、欠陥情報追跡(バーコードによる情報記録)、検査員による欠陥再確認、欠陥発生原因の特定、データ分析による生産最適化などの機能をもちます。

・goArms
輝度による立体イメージング技術をベースに、組み込み式ソリューションでハードウェア&ベーシック機能ライブラリを提供しています。輝度測色計、信号発生器、産業用スマートカメラ、産業用3Dカメラ(光による構造イメージング)、検査治具などが含まれています。

高視科技では現在、液晶ディスプレイ・リチウム電池・ガラス・チップなどのAOI検査(Automated Optical Inspection、自動光学検査)や製造向けのサイズ測定、ビジョンナビゲーションなどのソリューションを提供しています。

 

■璞華ビッグデータ(HawkEye Intelligent Maintenance Platform)

生産・メンテ最適化ソリューションの代表的な企業として、璞華ビッグデータ(Purvar Data)を紹介します。璞華ビッグデータは、2014年に設立された技術ベンチャーであり、工場設備などのメンテナンスインテリジェンス化に取り組んでいます。その中核ソリューションは、設備メンテナンスプラットフォーム(HIMP, HawkEye Intelligent Maintenance Platform)と呼ばれています。

HIMPは、IoT(モノのインターネット)・ビッグデータ・AIなどの技術を利用して、設備データの収集・送信・保存・分析などの処理を行っています。その上でメンテナンスの予測にフォーカスすることによって、設備のメンテナンス効率化向上とトータルコストダウンを目指しています。そのほか、経営者の意思決定・管理者のマネジメント・作業員のオペレーションなどを全面的にサポートします。

 

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【画像出典】璞華ビッグデータ(www.purvardata.com)

・IaaS(Infrastructure as a Service):主にオペレーションシステムやデータベースなどの基礎ソフトウェアおよびコンピューティングリソースやストレージリソースなどの基礎ハードウェアから構成されます。

・PaaS(Platform as a Service):モノのインターネットプラットフォーム・アプリケーションプラットフォーム・データプラットフォームなどから構成されます。

・SaaS(Software as a Service):設備・オペレーション作業・検査・修理・マネジメント・意思決定などのインテリジェンス化を実現するアプリケーションであり、設備の監視・検査・修理・メンテナンスなどを一体化します。

HIMPは、機械学習アルゴリズムやモデリングアセスメントなどを通じてどこの設備がいつ故障しそうかを予測することにより、事前にメンテナンス措置を行い、故障を防ぐことにフォーカスします。故障診断モデルやその比較に基づき最適な診断・修理方法を提案し、診断・修理を効率化します。

 

■新松(産業用スマートロボット群)

産業用スマートロボットソリューションの代表企業として、新松が挙げられます。新松は、2000年4月に設立され、中国科学技術研究院瀋陽自動化研究所から生まれた中国ロボット産業のリーディングカンパニー。中国国産ロボット領域のトップともいわれています。2009年10月に深セン証券取引所に上場した新松。上場銘柄の名称は「機器人(ロボット)」とネーミングされており、中国ロボット業界での地位を物語っています。

 

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【画像出典】新松(siasun.hk)

 

新松は、ロボットの中核技術(機械制御・AI・ビッグデータ・ヒューマンマシンインターアクションなど)、ロボット中核部品(コントローラー・サーボモーター・アクチュエーター・減速機など)、ロボット本体(産業&サービス)、およびインダストリー4.0(スマートファクトリー・スマートデバイスなど)など産業向けのソリューションを提供しています。

産業用ロボットは、溶接・組み立て・研磨・パレタイジング・塗装・プレス・クリーンルームロボットなどの領域をカバーしており、製品ラインナップが比較的に充実されています。

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【画像出典】新松のウェブサイト情報をもとに筆者作成

新松は中国産業用ロボットのリーディングカンパニーであるものの、ファナック・安川電機・ABBなどのグローバル産業用ロボット大手に比べ、技術的にも規模的にもまだまだ長い道のりを必要としています。

以上、中国の製造業におけるAIの利活用について紹介しました。AIの技術発展と利活用の浸透に伴い、ソリューションも徐々に進化していくと思われます。最初は効果があまりないと思われるかもしれません。しかし長い視野をもって試行錯誤を繰り返していけば、製造業の効率向上とコストダウンに大いに貢献していくと確信しています。

 

 

唐 徳権 とう とくけん

唐 徳権 (とう とくけん)

イーパオディング株式会社代表取締役社長
北京璞華ロボット情報技術有限公司Founder &CEO

中国におけるロボット及び人工知能事業、日中間のビジネスコンサルティングに従事。ロボットや人工知能についての情報発信も積極的に行っている。日経クロストレンドでは「中国デジタル革命の深層」という連載を執筆中

 

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