2020年 中国AI業界の主要トピックまとめ(コロナ/AIチップ/自動運転)【唐徳権の中国デジタル事情】

2020年は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で誰も予測できていなかった波乱万丈な展開となり、人工知能産業業界でも大きな変化が見受けられました。新型コロナウイルスが流行している厳しい環境の中で、AI産業界はどのような対応をしてきたのでしょうか。そして、AIの研究開発にはどのような進展があったのでしょうか。
本コラムでは、新型コロナウイルス防疫、AIチップ、自動運転、及びインターネット大手企業の動向を中心に、中国AI業界のこの1年間の出来事についてまとめました。

1)新型コロナウイルス防疫について

(1) 感染予防AI

2020年は、新型コロナウイルスが流行している中で、「いかに感染者を発見できるか」が、非常に重要な対応ポイントとなりました。人間での対応だけでは、人手不足になりやすいし、交差感染のリスクも高いです。中国コンピューター・ビジョン領域のBig 4(Computer Vison Big 4 of China)は、新型コロナウイルス拡散対策として、自社の画像認識技術とサーモグラフィー技術を生かし、体温測定・マスク着用チェック・ CT画像分析などに向けたソリューションを提供しています。

 

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商湯科技(センスタイム、SenseTime)
画像認識技術とサーモグラフィー技術を利用したスマートAI防疫ソリューション( Smart AI Epidemic Prevention Solutions )を提供し、地域通行や出入り口通行などで接触せずに、顔認識、マスクチェック、体温測定を行うことを可能にしました。画像処理技術を利用したセンスケア・スマート・ヘルス・プラットフォーム(SenseCare Smart Health Platform)を提供しています。また肺のCT画像を分析し、異常検出、病巣特定やレポートの自動作成などの機能を通じて医師の診断を支援しています。

曠視科技(メグビー、Megvii)
曠視明驥AI体温測定ソリューション(AI-enabled temperature detection solution)を提供し、「ボディー認識+顔認識+ダブルセンシング(赤外線・可視光線)」技術を生かして、流動人口が多い電車駅・バスターミナル・空港などのパブリックスペースで迅速に体温異常を発見することを可能にしました。3メートル以内であれば、マスクや帽子を着用していても体温の認識誤差は±0.3℃の範囲内で押さえられます。

依図科技(イトテック、YITU)
新型コロナウイルスCTスマート評価システム(Coronavirus Chest CT Smart Evaluation System)を提供しています。肺の病巣の形態・範囲・密度などの定量的分析とオミックス解析、病変分類(局所病変・びまん性病変・全肺性病変)や治療効果分析などを行い、医師の意思決定を支援しています。

雲従科技(クラウドウォーク、CloudWalk)
顔認識技術とサーモグラフィー技術を利用したAIインテリジェント防疫ソリューション( AI Intelligent Epidemic Prevention Solution )を提供しています。体温異常検出・マスク無着用チェック・リアルタイムフェイスキャプチャーなどの機能を持っており、Cross-border person re-identification (ReID) 技術を利用して遠く離れた場所に設置された防犯カメラに写った映像を用いて個人を識別することを可能にしました。適切な距離で体温測定できて便利です。

(2)診断補助AI

アリババは、技術研究開発機構「達摩院(DAMOアカデミー)」の研究成果をもとに、COVID-19の流行予測・CT画像解析・ゲノム解析などのソリューションを提供しています。たとえば、以下のようなソリューションです。

流行予測ソリューション
流行予測ソリューション(Epidemic Prediction Solution)は、特定の地域におけるCOVID-19の流行の特徴をモデル化し、流行規模・ピーク時間・ピーク期間・流行の広がり傾向を、「楽観的」・「中立的」・「悲観的」といった3つのレベルで評価します。公共政策立案者や医学研究者が、感染予防・制御対策や医療資源配分、旅行勧告などを企画・実施する際に参考にできます。

CT画像解析ソリューション
CT画像解析ソリューション(CT Image Analytics Solution)は、COVID-19を診断する際の検査精度と検出効率を大幅に向上させるCT画像解析技術です。中国におけるデータを使用して学習したディープ・ラーニング・アルゴリズムにより、COVID-19の異種を含む、さまざまな種類の肺炎の確率を予測できます。また、肺領域のセグメンテーション法を使用して、肺全体に対する病変の割合と罹患体積比の計算も実行可能です。

新型コロナウイルス診断向けゲノム解析ソリューション
新型コロナウイルス診断向けゲノム解析ソリューション(Genome Sequencing for Coronavirus Diagnostic Solution)は、ウイルス遺伝子データのスクリーニング・進化解析・タンパク質構造解析、診断レポートを含む、コロナウイルス解析のためのウイルス・ゲノム解析ソリューションであり、14時間以内に新型コロナウイルスの診断を完了することが可能です。このソリューションにより、疾病管理センター、病院、診療所、および研究所は、不十分な核酸検出能力、PCR法の高い偽陰性率、ウイルス突然変異の可能性といった課題に対処することができます。

E-HPC
「エラスティック・ハイパフォーマンス・コンピューティング(E-HPC)フォー・ライフサイエンス・ソリューション(Elastic High-Performance Computing Solution for Life Sciences)」は、高性能コンピューティング・クラスタ・ソリューション+AIプラットフォームとして、生命科学アプリケーション、特に「コンピュテーショナル・ドリブン・ドラッグ・デザイン( CDDD, Computational-Driven-Drug-Design)」と「AIドリブン・ドラッグ・デザイン( AIDDD, AI-driven-Drug-Design)」の研究者向けに設計されています。肺炎向けインテリジェントCT診断システムの診断時間の短縮や遺伝子構築の高速化などを可能にしました。

(3)防疫ロボット

新型コロナウイルス対策の一環として、非接触型体温測定・消毒が求められています。これに対して、中国のサービスロボット専門会社は、受付・案内・搬送ロボットに体温測定や消毒などの機能を加えて防疫に生かしています。以下に、防疫ロボットの一部を紹介いたします。現在も、ショッピングモール、ホテル、レストラン、展示会、高速鉄道駅、オフィスビルなど、様々な場所で活躍しています。

 

2)AIチップについて

AIチップは、人工知能産業の発展に必要不可欠なもので、最近中国産業発展のアキレス腱として重視されるようになってきています。このアキレス腱を克服すべく、大手も専門会社もAIチップの開発に注力し始めています。以下は、今年代表的な出来事です。

 

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ESWIN
2020年2月28日に、奕斯偉科技集团(ESWIN)が設立され、ディスプレー事業で有名な京東方科技集団(BOE Technology Group)の元創業者である王東昇(ワンドンシェン)が董事長を務め、AIチップ事業を強化。6月8日に20億人民元の資本を調達し、注目を集めました。スマートフォン、スマートホーム、スマート交通、インダストリアルIoT向けのディスプレー・ビデオなどに使用できるAIチップを目指しています。

Cambricon
AIチップ専門会社キャンブリコン(Cambricon)は、2020年7月20日に、 Horizon Roboticsは、上海証券取引所科技創新板( SSE STAR Market, Shanghai Stock Exchange, Science and Technology Innovation Board)に中国初のAIチップ企業として上場を果たしました。キャンブリコンは、クラウド・エッジ・ターミナル向けのプロセッサー製品ポートフォリオを持っており、AIチップのパイアニアとして注目を集めています。

Horizon Robotics
エッジ側AIチップに専念するホライズンロボティクス(Horizon Robotics)は、2020年9月9日にAIoT向けのエッジ用チップ「Sunrise(旭日)3」を発表しました。「AI on Horizon 」戦略を掲げ、エッジ側人工知能アルゴリズムとチップ設計に重点を置き、「人工知能チップ+アルゴリズム+クラウドサービス」といった事業内容にフォーカスしており、自動運転・スマートシティ・スマートリテール向けのソリューションを提供しています。

今まで中国企業が発表したAIチップは、上記のものなどが挙げられます。これは全体のほんの一部です。中国企業はAIチップの設計ツールや製造設備など極めて難しい課題に直面しながらも、何とか努力を重ねている姿勢が伺えます。

 

3)自動運転について

中国自動運転領域には、グローバル大手も含め、多くの企業が参画しています。中国系プレーヤーのみ以下にまとめました。自動運転のシステム・アルゴリズム、マップ、LiDAR、ミニ波レーダー、監視カメラ、チップ、V2X(Vehicles to everything)、車体メーカーなどそれぞれの領域において、多くのプレーヤーが熾烈に競争しています。

 

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Pony.ai
自動運転車のスタートアップであるPony.ai(小馬智行)は、2020年2月26日に、トヨタ自動車から4億ドルを調達したと発表しました。Pony.aiは、2016年に創業された中国トップクラスの自動運転技術スタートアップで、既に中国の北京、広州および米国カリフォルニア州などのテスト対象地域で自動運転車のテスト運行を実施しました。

Baidu
中国自動運転業界のリーディングカンパニーとしてBaidu(バイドゥ)は、自動運転用オペレーションシステム「Apollo」、や地図サービス「百度地図」を自ら進めているほか、自動運転車本体も提供しています。2020年4月19日に長沙、8月21日に滄州、10月10日に北京で自動運転タクシーの体験を開始しました。9月15日に「Apollo」を6.0へバージョンアップし、環境認識のアルゴリズム・モデルを拡充するとともに、V2X(Vehicles to everything)も大幅に機能を増強しました。

WeRide
自動運転車のスタートアップであるWeRide(ウィーライド)は、2020年6月30日にアリババ系の地図サービス会社である高徳地図(amap.com)と協業して、広州に自動運転タクシーを呼ぶサービスを開始しました。2019年11月28日に広州で自動運転タクシーを発足しましたが、今回はタクシー予約アプリで自動運転タクシーを呼ぶことができるようになりますので、利用者にとってはさらに便利になります。

AutoX
自動運転車のスタートアップであるAutoX(オートX)は、2020年8月17日、上海における自動運転タクシーサービスを開始しました。そして、AutoXは、7月に米国カリフォルニア州でセーフティドライバー無しの完全無人運転公道テスト許可を取得し、世界で2番目、中国初の当該ライセンスを取得した企業となっています。

 

4)インターネット大手の動向

中国AI産業においては、インターネット大手が全体をリードしており、その動きが注目されています。新型コロナウイルスの影響もある中で、AI技術の研究開発を進めています。アリババ、テンセント、ジンドンを代表的な企業を例として紹介します。

アリババ
アリババは、2020年9月17日のアリババクラウド年次イベントである「Apsara Conference 2020」で、初の自律型配送ロボット「小蛮驢(シャオマンリュ)」とロボットプラットフォームを発表し、正式にロボット市場に進出しました。アリババの技術研究開発機関であるアリババ達摩院(DAMOアカデミー)が開発したこの自律型配送ロボットは、1回で50個の荷物を搬送することができ、1回の充電で最大100キロ走行することができます。(出典:達摩院オフィシャルサイト「damo.alibaba.com」)

 

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なおアリババは2020年9月16日に、新たな製造モデルである「ニュー・マニュファクチャリング」を初めて採用したデジタル工場「迅犀(シュンシー)デジタル工場」(Xunxi Digital Factory)を発表しました。淘宝(Taobao)および天猫(Tmall)の膨大なデータを生かして、需要分析ブレイン、デジタル化プロセス、自律的スケジューリング、オンデマンド供給網、柔軟的な生産態勢などを通じて、フレキシブルな生産を実現できています。いまアパレル業界の中小企業にこのデジタル化生産能力を提供しています。製造業にインパクトをもたらした出来事として話題になっています。(出典:シュンシーオフィシャルサイト「xunxi.alibaba.com」)

テンセント
テンセントのロボット開発機構「Robotics X」実験室は、2020年11月20日に四足歩行ロボットと輪式自律走行ロボットを公開しました。2018年3月に設立された「Robotics X」は、ロボットの移動、操作、知能体などの研究開発にフォーカスし、テンセントのAI技術開発を支える形になります。今回公開されたロボットは、ロボットの移動技術に該当することで、研究開発の成果として取り上げられています。

 

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ジンドン
中国EC大手の京東(ジンドン)は、2020年3月24日にデータセンター構内の巡回ロボットを公開しました。サーバルームの温度・湿度・粉塵・煙・騒音などの環境指標をリアルタイムにモニターリングしつつ、サーバの計器盤、表示灯、パネル、スイッチなどの設備情報を検出し、異常報告などを行います。このほか、作業自動化・巡回検知などのAI製品をリリースしました。

 

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なお、ジンドンは、ECに必要な物流業務に利用する様々なロボットも開発しました。以下はその一部です。現在も、多くの物流作業現場で活躍しています。

 

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2020年は、新型コロナウイルスの影響などにより厳しい経済環境にあったものの、各社は人工知能の研究開発及び商品化を着実に進めてきた印象です。しばらくはその影響が続くだろうといわれている世界情勢ではありますが、人工知能の発展は止まることなく、むしろ加速することが期待できそうです。2021年も、引き続きこのAI業界のトレンドを注視していきたいと思います。

 

唐 徳権 とう とくけん

唐 徳権 (とう とくけん)

イーパオディング株式会社代表取締役社長
北京璞華ロボット情報技術有限公司Founder &CEO

中国におけるロボット及び人工知能事業、日中間のビジネスコンサルティングに従事。ロボットや人工知能についての情報発信も積極的に行っている。日経クロストレンドでは「中国デジタル革命の深層」という連載を執筆中