アリババグループの物流の要「菜鳥」の2020年の動向を解説【唐徳権の中国デジタル事情】

アリババグループの物流業務を担当する菜鳥網絡科技有限公司(英字はCainiao、以下「菜鳥(ツァイニャオ)」)は、毎年中国で盛り上がるEC商戦「ダブルイレブン(独身の日)」を支えるアリババグループのコア・コンピタンスとして、その存在感がますます目立ってきています。

世界中の多くの人にとって特別な年となった2020年、菜鳥ではどのような動きがあったのでしょうか。簡単にまとめておきたいと思います。

 

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(出典)菜鳥の画像をもとに筆者が作成

 

菜鳥のロジスティクスビジネス概要


菜鳥は「中国物流産業のデジタルトランスフォーメーション」(Digital Transformation of the Logistics Industry)を実現すべく、下記のようにコンシューマー・ショップオーナー・物流パートナーに向けて様々な物流サービスを提供しています。

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(出典)アリババグループ2020 Investors Day発表資料:「Cainiao Network - Smart Logistics Network」

・コンシューマー向けサービス
コンシューマー向けサービスは主に「Cainiao Post」と「Cainiao Guoguo」という2つのサービスを提供しています。Cainiao Postとは、荷物の発送・受領を担当する施設のことを指し、コミュニティや学校などに設置され、宅配のラストワンマイル(利用者にサービスが届く最後の区間のこと)としての役割を果たしています。Cainiao Guoguoは、荷物の発送を依頼するアプリのこと。Cainiao Guoguoを使うと、集荷を予約して宅配者に来てもらうことができます。

・ショップオーナー向けサービス
電子商取引ショップオーナーに向けて、中国国内と海外の物流ネットワークを提供しています。商品の発送・運搬・宅配を全面的に支援しています。

・物流パートナー向けサービス
物流業者に向けて、物流のハブ・倉庫・プラットフォームを提供したり、物流テクノロジーを提供したりしています。

 

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(出典)アリババグループ2020 Investors Day発表資料:「Cainiao Network - Smart Logistics Network」

菜鳥は、「中国全土24時間、全世界72時間」で荷物を配送できるスマート物流プラットフォームを目指しており、今現在、世界中の大型物流拠点「eHUB」として、杭州、香港、クアラルンプール、バンコク、ドバイ、モスクワ、レーヨンを選定し、建設を進めています。この物流基幹網を利活用することで、商品在庫の削減と物流コストの削減に貢献すると期待されています。

 

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(出典)アリババグループ2020 Investors Day発表資料:「Cainiao Network - Smart Logistics Network」




 

菜鳥のコロナウィルス感染症対策

菜鳥は、コロナウィルス感染症が拡散している中で、防疫用品の物流・配達に大きな役割を果たしました。2020年6月23日に開催された「2020年度グローバル・スマート・ロジスティクス・サミット(GSLS, Global Smart Logistics Summit)」で菜鳥CEOの万霖氏が行った発表によると、武漢がロックダウンした後、菜鳥は、世界50社のロジスティクスカンパニーと2時間でグローバル・ロジスティクス・ファスト・トラック(グリーンチャネル)を構築し、緊急体制で防疫に取り組みました。その結果、世界中から武漢への防疫用品輸送・配達をスピーディーに実現させることができたのです。

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(出典)万霖氏のGSLS講演資料より

新型コロナウィルス感染症が世界で蔓延する中で、菜鳥は自社の物流基幹網を防疫生命線として多くの国際機構と協力し、世界的に活躍しました。この根幹は、世界中の大型物流拠点「eHUB」を含めたグルーバル・サプライチェーン・ネットワークにあります。防疫用品の生産、在庫、運送、通関、配達などすべてのプロセスにおいて効率的なデジタル化が働き、物流基幹網は非常に重要なインフラとしてその重要性が検証されました。

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(出典)万霖氏のGSLS講演資料より

菜鳥の越境物流「アポロ計画」

菜鳥は2020年に、EC商戦「ダブルイレブン」に備え、物流効率を向上させるために、東南アジア・南アジアに菜鳥のロジスティクスコアシステム(ロジスティクス・ブレイン)を提供する「アポロ計画」を遂行しました。6カ月間にわたり600名の技術者が参画した結果、10億人をカバーする11カ国にて、スピーディーなシステム構築を実現させたのです。

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(出典)筆者がインターネット情報よりまとめ

これにより、菜鳥のロジスティクスコアシステムを導入した国々では、中国と同じく、ショップオーナー、物流会社、配達会社、倉庫会社、コンシューマーなどはこのシステムで繋がれるようになりました。オーダーの自動的な配分、発送ルートのスマートプランニング、重量・サイズの自動的な測定、発送費用のワンクリック調整などを実現するとともに、荷物にユニークなデジタルIDが付けられるようになり、購買・物流・配達のフルプロセスで認識・管理されるようになりました。これにより、いつでもどこでもリアルタイムで荷物の搬送・配達状況を確認できるようになったのです。中国も含めた12カ国において菜鳥のロジスティクスコアシステムが一体化したことで、越境ECの物流・配達の効率向上に貢献しています。
 

菜鳥のロジスティクステクノロジー

菜鳥は物流・配達業界のデジタル化・インテリジェンス化を実現することにより、すべてのコンシューマーには優れた物流体験を、ショップオーナーにはインテリジェントサプライチェーンを提供しています。菜鳥は設立当初からテクノロジーそのものに着眼して急成長を図り、現在はデータ分析・エラスティック コンピューティング・ロジスティクスインテリジェントアルゴリズムなどを生かした製品ポートフォリオを提供しているのです。

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(出典)アリババグループ2020 Investors Day発表資料:「Cainiao Network - Smart Logistics Network」

菜鳥は物流・配達業界に向けて効率的なサプライチェーンを目指し、ソフトウェアだけではなく、ハードウェアも次々とリリースしています。倉庫で利用される無人倉庫システム・AR物流システム・スマート梱包システムのほか、IoTデバイスとして、以下の様々な物流製品を提供しています。EC商戦イベントでは、コンシューマーにライブで商品販売すると同時に、倉庫の稼働状況を生放送する「倉庫のクラウド観賞」を実施しています。

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(出典)菜鳥社のオフィシャルサイト(www.cainiao.com)

 

菜鳥の価値と今後

2013年に設立以来、菜鳥の成長ぶりには目を見張るものがあります。長者番付を調査している胡潤研究院(Hurun Report Inc)が2020年8月に発表した「2020年Hurunグローバル・ユニコーン・ランキング」では、菜鳥は1900億人民元の評価価値で世界のユニコーン9位にランクインしました。これは前年と比べると600億人民元も増加したことになります。ちなみにこのランキングには、日本のPreferred Networks、SmartNews、Liquidも入っています。

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(出典)胡潤研究院のオフィシャルサイト(www.hurun.net)

菜鳥は現在のアリババグループにおいて、Taobao・TMallといったEC事業、アリペイといったフィンテック事業、Alibaba Cloudといったクラウドコンピューティング事業に次いで成長する目玉ビジネスという立ち位置で育てられています。アリババグループは、菜鳥にアリババの近い未来を託しているといっても過言ではありません。物流需要の伸長に伴い、菜鳥にはさらなる発展が期待できるのではないでしょうか。

 

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(出典)アリババグループ2020 Investors Day発表資料:「Financial and Investment Perspectives」

「菜鳥」とは中国語で「初心者」という意味ですが、物流業界においてもはや菜鳥は「初心者」の域を超えた存在となっています。最新のテクノロジーを駆使して世界中で物流基幹網を構築している「菜鳥」は、既に世界物流業界の一角を担っているといってもよいでしょう。激変する物流業界の世界地図において、「菜鳥」はどこまで成長できるのでしょうか。その動向を引き続き注視したいと思います。 

 

唐 徳権 とう とくけん

唐 徳権 (とう とくけん)

イーパオディング株式会社代表取締役社長
北京璞華ロボット情報技術有限公司Founder &CEO

中国におけるロボット及び人工知能事業、日中間のビジネスコンサルティングに従事。ロボットや人工知能についての情報発信も積極的に行っている。日経クロストレンドでは「中国デジタル革命の深層」という連載を執筆中

 

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