中国の自動運転業界を解説:戦国時代の覇者をめざすバイドゥの自動運転基盤「Apollo」

世界最大の自動車消費市場、中国には、グローバル企業から中国ローカル企業まで多くの自動車メーカーが参画していますが、近年、自動運転の進化に伴い、さらに参入が増加し、急速に成長し、群雄割拠の状態となっています。今の中国の自動運転業界はどうなっているのか、詳しく解説していきます。

 

業界地図:群雄割拠の戦国時代

まず、業界の全体像を見ていきましょう。
中国・自動運転領域には、グローバル自動車メーカーも含め、中国を代表するIT企業やスタートアップなど多くの企業が参画しています。


ここではグローバル自動車メーカーは、日本と中国には特に大きな差がないので、中国系プレーヤーのみを以下にまとめました。

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中国自動運転業界地図(筆者作成)

自動運転のシステム・アルゴリズム、マップ、LiDAR、ミニ波レーダー、監視カメラー、チップ、V2X(Vehicles to everything)、車体メーカーなどそれぞれの領域において多くのプレーヤーが熾烈に競争しています。

上記の業界地図からは、まさに群雄割拠の戦国時代と言えるでしょう。熾烈な競争のため、1-2年でこの業界地図から消えてしまう可能性は十分があると思われます。

全体的には、人工知能技術から生まれた会社には、バイドゥ系、清華大学系、アリババ系、中国科学院系の存在感や影響力が強いと見受けられ、下記に簡単にその特徴を解説をしておきます。

 

・バイドゥ系

バイドゥ(Baidu)は、中国自動運転業界のリーディングカンパニーとして大きな存在感を示しています。バイドゥは、自動運転用オペレーションシステム「Apollo」、や地図サービス「百度地図」を有しているおり、電気自動車のスタートアップである威馬汽車(WM Motor)、蔚来汽車(NIO)、自動運転におけるセンサーテクノロジー企業の禾賽科技(Hesai Tech)にも投資しています。
そして、バイドゥの元社員より設立したスタートアップも目立ちます。例えば、地平線(Horizon Robotics)、文遠知行(WeRide)、禾多科技(Holomatic)、ポニーエイアイ(Pony.ai)などが挙げられます。

 

・清華大学系

清華大学(Tsinghua University)は、中国トップクラスの理工科大学としてハイレベルの技術者を輩出しています。清華大学には、自動車、コンピューターサイエンス、電子機械、自動化など自動運転に必要な研究開発機構が揃っており、実力も中国のトップを走っています。
清華大学出身の創業チームは、技術力がよく評価され、ベンチャーキャピタルからも注目され、多くの投資を集める傾向があります。例えば、知行者(Idriverplus)、モメンタ(Momenta)、禾賽科技(Hesai Tech)、清智科技(Tsintel Technology)、縦目科技(Zongmu Tech)などが挙げられます。

 

・アリババ系

アリババは、自動運転、家電(TV・冷蔵庫など)、スマホ向けのオペレーションシステム「AliOS」の開発を進めています。道路側の知能化整備がないと、自動運転車のみでは本当の自動運転が難しいという判断のもと、当初から車道側のアプローチで開発を進め、道路の知能化整備にも力を入れてきました。
アリババ系自動運転スタートアップには、高徳地図(amap.com)、速騰聚創(RoboSense)、小鹏自動車(XiaoPeng)などが挙げられます。

 

・中国科学院系

中国科学院(Chinese Academy of Sciences)は、中国科学技術研究開発の大手機構として自動運転の様々な研究開発に取り組んでいます。基礎技術の研究開発のほか、商用化にも強いことが特徴です。
自動運転領域には、寒武紀(Cambricon)、中科慧眼(Smarter Eye)、主線科技(TrunkTech)などが挙げられます。

 

戦国時代の覇者になりつつあるバイドゥの自動運転基盤「Apollo」

中国の自動運転業界は、群雄割拠の戦国時代にありますが、バイドゥは、その覇者としての存在感が高まりつつあります。バイドゥは「All in AI」戦略のもとで、全社的にAIに注力しています。その代表的な成果は、自動運転基盤である「Apollo(アポロ)」になります。

apollo.auto

・Apolloの歩み

 Apolloは、様々なAI技術を融合した自動運転車オペレーションシステムであり、オープンソースとして自動運転業界のAndroidを目指しています。開発者は、ハードウェアとソフトウェアを融合するこのプラットフォームを利用することで、自社なりの自動運転システムを快速に開発することが可能となり、地図情報、シミュレーター、深層学習などを生かした自動運転アルゴリズムなども利用できます。

  Apolloは、2017年4月にリリースされたApollo1.0から、2019年7月にリリースされたApollo5.0まで成長してきており今現在、限定地域向けの自動運転車の量産化バージョンがリリースされています。2021年には、高速道路や都市道路の全自動運転を目指しています。

 

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Apolloのロードマップ(Apollo公式サイトより)

・最新版Apollo5.0

Apolloは、下図の通り、「Open Vehicle Certification Platform」、「Hardware Development Platform」、「Open Software Platform」、「Cloud Service Platform」といった4つの技術レイヤーから構成されています。

Apollo5.0では、限定地域向けの自動運転車量産化バージョンとして、自動運転に必要不可欠なプランニング(企画)、センシング (感知)、コントロール(制御)、プリディクション(予測)などの能力がより一層強化されています。

このバージョンでは、新しいモジュールとしてデータパイプライン(Data Pipeline)が初めてリリースされ、自動運転データの自動収集、データセットのオープン化、クラウドベースのデータトレーニング、シミュレーターによるデータ検証などが簡単にできるようになっています。

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Apollo5.0の概要

・Apolloの利活用

Apolloを生かして、多くの利用シーンに合わせた車種が出てきています。一般道路を走る無人バス、商品を販売する無人販売車、自動で走行する無人散歩車、道路を清掃する無人清掃車、研究開発機構向けの教育用自動運転車、無人で動かすパワーショベルなど既に出てきています。今後も様々な利用シーンに合わせて、Apolloの利活用が広がるのではないか、と思われます。

 

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2019年7月に開催されたカンファレンス「Baidu Create 2019」で「Applo 5.0」が発表された

・Apolloの開発コミュニティ

Apolloは、オープンソースとして、誰でも利用できます。エコシステムの繁栄は、オープンソースの命ともいえます。今現在、97カ国で2.4 万人以上の開発者、そして150社以上のパートナーがこのエコシステムに参画しており、Apolloの持続的な進化に貢献しています。

公開されているソースコード量は53万行にも上り、自動運転業界でもっとも活発したコミュニティの一つに成長してきています。

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Apolloには2.4万人以上の開発者、150社以上のパートナーが参加し、ソースコード量は53万行にもなる。

・Apolloの開発キット

自動運転の開発には、ハードウェアもソフトウェアも必要不可欠であり、開発者は各種デバイスや開発環境を用意しなければならないので、手間も費用もかかります。

バイドゥは、自動運転車の開発・検証の加速を支援するために、ソフトウェアとハードウェアを一体化した開発キット(Apollo D-Kit, Baidu Autonomous Driving Develop Kit )を提供し始めています。この開発キットを利用すれば、ローコストで開発と検証が実現できます。

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バイドゥが開発中の自動運転車(Apollo公式サイトより)

 

・バイドゥの実力

バイドゥは、中国自動運転業界における圧倒的な存在として、業界をリードしています。自動運転公道走行試験許可を取得した自動運転車の台数は中国総数の半分以上を占めており、自動運転領域の特許数も中国企業の中では圧倒的に多いです。

バイドゥからの人材流出は多いですが、全体としての実力は覇者の座に相応しいのではないかと思われます。

 

バイドゥは2019年7月1日に、北京市自動運転試験管理機構から自動運転レベル4の試験許可5枚を全て手に入れました。レベル4の試験許可は、中国で初めて、且つ唯一の企業となっています。

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バイドゥが取得した自動運転レベル4の試験許可証

 

ソフトバンクグループの孫社長が「AIは、あらゆる産業を再定義する」と言った通り、自動車業界も、例外ではありません。AIの進化に伴い、自動運転はすごいスピードで現実味を帯びてきています。この巨大な産業は、今後、さらに競争も激しさをまし、かつてない熾烈な戦いになるのではないかと思われます。今後も引き続きその動向を注視していきます。

筆者プロフィール

唐 徳権 とう とくけん

唐 徳権 (とう とくけん)

イーパオディング株式会社代表取締役社長
北京璞華ロボット情報技術有限公司Founder &CEO

中国におけるロボット及び人工知能事業、日中間のビジネスコンサルティングに従事。ロボットや人工知能についての情報発信も積極的に行っている。日経クロストレンドでは「中国デジタル革命の深層」という連載を執筆中。

 

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