欧米の大手製造業が中国に設立したスマート工場の事例

世界経済フォーラムでは「ライトハウス(Lighthouse、灯台)工場」の認定が進んでおり、2021年8月現在では、世界で69の工場が認定されています。そのうちの21工場は、家電、自動車(部品含む)、電子製品、半導体、鉄鋼、産業機械、消費財などを製造する様々な分野に渡り、中国各地に点在しています。この中で、完全な外国企業の工場は7カ所が数えられます。本稿は、これらの外国企業が中国に設立したライトハウス工場について紹介します。

中国にある欧米企業のライトハウス工場

中国にある欧米企業のライトハウス工場

ボッシュ

ボッシュは、ドイツに本社を置く世界のトップクラスの自動車機器サプライヤーであり、モビリティ ソリューションズ、産業機器テクノロジー、消費財、およびエネルギー・ビルディングテクノロジーのビジネスを展開しています。中国には56社の会社、34カ所の生産基地、22カ所の技術センターを持っており、従業員は約5.3万人です。

ボッシュの中国国内にある無錫と蘇州の2工場は、ライトハウス工場として認定されています。無錫工場では「コネクテッド工場からのビッグデータを運用改善に生かし、俊敏なコンセプト検証を実施することにより、新しいユースケースの迅速な展開をサポートしている」と評価されており、蘇州工場では「グループ内の卓越したマニュファクチャリングロールモデルとして、マニュファクチャリング(製造工程)やロジスティクス(物流の一元管理)にデジタルトランスフォーメーション戦略を導入した結果、製造コストを15%削減し、品質を10%向上させた」として評価されています。

中国にある欧米企業のライトハウス工場

中国にある欧米企業のライトハウス工場

ボッシュは、人工知能技術を重視し、2025年までに全ての製品に人工知能を装備すること、またその開発と生産に人工知能技術を利用することを目指しています。上記の無錫工場と蘇州工場には、生産ラインの柔軟性と品質を向上させるために、自動工学検査システムに人工知能技術を利用しています。結果、中国では毎年2,300万人民元(約3.9億円)を節約できるようになっているそう。2020年3月に、清華大学と機械学習共同研究センターを設立し、産業用人工知能の研究開発と利活用の中核領域について研究開発を進めています。

自動工学検査システムにAIを利用する様子(出典:https://www.bosch.com.cn/)
自動工学検査システムにAIを利用する様子(出典:ボッシュ中国プレスリリース

シーメンス

シーメンスは、ドイツに本社を置くテクノロジーカンパニーであり、情報通信、交通、防衛、生産設備、家電製品等の分野で製造およびシステム・ソリューション事業に取り組んでいる企業です。中国では40以上の子会社、及び3万人以上の従業員体制でビジネスを展開しています。

シーメンスの成都デジタル工場(SEWC, Siemens Electronic Works Chengdu)は、2018年9月にライトハウス工場として認定されています。ドイツ以外に設立された最初のデジタル工場であり、ドイツ・アメリカ以外に設立された3番目の工業自動化製品研究開発センターでもあるのです。

シーメンスの成都デジタル工場

シーメンスの成都デジタル工場

シーメンスは、成都デジタル工場において積極的に人工知能を導入しています。たとえば製品の欠陥検査に、Computer Vision、Few-Shot Learning、Multimodal Fusionなどの技術を利用しています。

そして自社クラウドベースのオープンなIoT(Internet of Things)オペレーティングシステムである「MindSphere」を利用することにより、機械や物理インフラをデジタル世界につなげ、工場データを生かしてクラウド側で機械学習のトレーニングを実施し、その後アルゴリズムモデルをエッジ側で利用することで、リアルタイムにデータの処理と推理を行うことができるようになっています。「MindSphere」は、工場の品質欠陥検査や部品仕分け、生産パラメーターの最適化などの業務にも貢献しているのです。

シーメンス成都デジタル工場の様子(出典:シーメンス中国プレスリリース)
シーメンス成都デジタル工場の様子(出典:シーメンス中国プレスリリース

ダンフォス

ダンフォスはデンマークに本社を置くグローバルカンパニー。冷凍、暖房、水処理、トランスミッション制御などのビジネスを展開しています。今年8月に、Eaton(イートン)の油圧事業を買収し、モバイル油圧および産業用油圧のグローバルリーダーとしての地位を更に強化しました。中国では、18の子会社と5カ所の生産基地を所有しています。

ダンフォスの天津工場がライトハウス工場として認定されたのは、2019年1月。「完全なデジタルトレーサビリティシステム、スマートセンサー、視覚検査、自動監視システムなどのデジタルツールを使用して品質管理システムを改善することにより、2年間以内で労働者の生産性を30%向上させ、顧客の苦情を57%低減できた」と評価されています。

ダンフォスの天津工場

ダンフォスの天津工場

ダンフォスは、天津工場にプロセス制御システム、品質検査システムのアップデートを実施し、加工ラインに統計プロセス制御システムを加えることにより、リアルタイムでの制御が可能となりました。

「作業停止ゼロ、事故ゼロ、廃品ゼロ」を目指し、全てのワークステーションをつなげ、各生産作業の合格率を確保するとともに、視覚検査システムにより品質検査を強化します。そしてデジタル・トレーサビリティ・システムを生かしてサプライチェーンから製品製造・納品までの全プロセスを追跡し、あらゆる品質問題に対して迅速な対応を実現できています。

ダンフォスの天津工場の様子(出典:ダンフォス社Wechatアカウント)

ダンフォスの天津工場の様子(出典:ダンフォス社Wechatアカウント

ジョンソン・エンド・ジョンソン

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、世界最大級のヘルスケアカンパニーとして、消費者向け製品、医療機器、医薬品の分野でグローバルビジネスに取り組んでいます。中国には10以上の子会社、9カ所のサプライチェーン基地、1.1万人以上の従業員体制でビジネスを展開しています。

医療機械製造の蘇州工場がライトハウス工場として認定されたのは、2020年1月。「パフォーマンス向上を促すために、自社の他施設で作成された標準化ソリューションをスケールアップ。生産性15%アップなどを達成している」と評価されています。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの蘇州工場

ジョンソン・エンド・ジョンソンの蘇州工場

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、2019年10月からチャイナ・イノベーション・エンジンプロジェクトを発足し、中国においてハイエンドの製造能力を向上しようとしています。

蘇州工場では、ロボットとプロセス自動化、生産設備間のデジタル接続、デジタル・パフォーマンス・マネジメント、高度な計画最適化システム、VRトレーニングと運用シミュレーションなどの側面で革新を推進。各生産要素の相互接続を全体的に実現し、生産プロセスにおけるリアルタイム化、インタラクティブ化、プロシージョン化を目指し、リソース全体の最適化を図るとともに、作業の予測も行います。

ジョンソン・エンド・ジョンソン蘇州工場の様子(出典:ジョンソン・エンド・ジョンソン中国プレスリリース)
 
ジョンソン・エンド・ジョンソン蘇州工場の様子(出典:ジョンソン・エンド・ジョンソン中国プレスリリース

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)

P&Gは、世界最大の日用消費財メーカーとして洗剤、ヘアケア製品、化粧品、小型家電製品、ベビー用紙おむつなどの製品やサービスをグローバルで展開しています。

P&Gの江蘇省にある太倉工場がライトハウス工場として認定されたのは、2020年1月。「P&Gアジア(P&G Asia)初のライトオフ・オペレーションを構築し、エンド・ツー・エンドのサプライチェーンを接続するために、第四次産業革命のテクノロジーを活用した新しい施設として、生産性を2.5倍に増加、生産アジリティの加速、電子商取引の拡大、従業員満足度の向上を実現している」と評価されています。

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の太倉工場

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の太倉工場

太倉工場は、2010年に設立され、中国におけるP&Gの10カ所目の工場であり、華東地域の物流配送センターでもあります。これまでに、「リーン生産方式→自動化→デジタル化→ビッグデータ→品質管理」などの創意工夫を積み重ね、ライトオフ工場を実現。工場は、人工的な介入なしにデータとアルゴリズムで自動的に稼働できます。品質管理システムには、機械学習3Dビジョンシステム、重量検測およびフィードバックシステム、AR / VRトレーニングシステムなどが含まれています。

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)太倉工場の様子(出典:P&G社Wechatアカウント)
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)太倉工場の様子(出典:P&G中国WeChatアカウント

ユニリーバ

ユニリーバは、イギリスに本社を置く世界有数の一般消費財メーカーです。食品・洗剤・ヘアケア・トイレタリーなどの家庭用品を製造・販売しています。

ユニリーバの安徽省にある合肥工場がライトハウス工場として認定されたのは、2020年9月。「中国でのeコマースの急成長に伴い、柔軟な自動化や人工知能など第4次産業革命ソリューションを生産、倉庫保管、配送に大規模に利用し、プルプロダクションモデルを構築。その結果、注文から納品までのリードタイムを50%の短縮、顧客の苦情を30%の低減、コストを34%の削減、を実現した」と評価されています。

この合肥工場は、2020年に設立され、ユニリーバの世界最大の生産拠点に成長。今は、化粧品、パーソナルケア用品、ホームケア用品、お茶などの生産を行なっており、中国市場だけではなく、14の海外市場にも輸出されています。

ユニリーバの合肥工場

ユニリーバの合肥工場

合肥工場では、さまざまな革新的なテクノロジーとスマートデバイスを導入しています。そしてサプライヤーから顧客までのエコロジーチェーン全体を統合することにより、エンド・ツー・エンドの価値向上を実現させることに成功しました。サプライチェーンのすべてのプロセスをカバーするデジタル・マネジメント・プラットフォーム「ワンプラットフォーム」を通じて、リアルタイムで消費者のフィードバック、生産状況、施設状況、ロジスティクス情報などを把握し、迅速なレスポンスと意思決定が実行できます。

このほか、工場には、無人搬送車(AGV)、ワンボタン視覚認識ロボット、ゼロコンバージョン・リニア・フォローアップ式充填機などが導入されており、フレキシブルな生産、予測型メンテナンスを実現できています。合肥工場全体のインテリジェントレベルは、90%に達しており、業界をリードする「持続可能なインテリジェント製造」の生産拠点となっています。

ユニリーバの合肥工場の様子(出典:ユニリーバ中国プレスリリース)
ユニリーバの合肥工場の様子(出典:ユニリーバ中国プレスリリース

上記の企業は、中国においても積極的に工場のデジタルトランスフォーメーション(DX, Digital Transformation)に取り組んできています。これらのライトハウス工場の認定は、あくまでもその努力による成果の一環と捉えられます。そしてこれら認定された工場はほんの一握りで、今後も新しいライトハウス工場が出てくるだろうと予想できます。

これまでにも、私のコラムではアパレル製造業界の代表として「アリババの迅犀(シュンシー)デジタル工場」、自動車製造業界の代表として「上汽大通(SAIC Maxus Automotive)の南京工場」、電子製品製造業界の代表として「フォックスコン(Foxconn:鴻海)のデジタル工場」、家電製造業界の代表として「美的集団(Midea)のスマート工場」と「ハイアール(Haier)のスマート工場」、計5社の8工場を紹介してきました。ぜひこちらの記事もご覧ください。

参考

・世界経済フォーラム報告書
 「Global Lighthouse Network: Insights from the Forefront of the Fourth Industrial Revolution

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唐 徳権 とう とくけん

唐 徳権 (とう とくけん)

イーパオディング株式会社代表取締役社長
北京璞華ロボット情報技術有限公司Founder &CEO

中国におけるロボット及びAI(人工知能)事業、日中間のビジネスコンサルティングに従事。ロボットやAI(人工知能)についての情報発信も積極的に行っている。日経クロストレンドでは「中国デジタル革命の深層」という連載を執筆中。
記事内容に関するお問い合わせは tang_dequan @ epaoding.com までご連絡ください。