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世界最先端「ライトハウス工場」に中国企業が多い理由



世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)によって2017年から結成された「グローバルライトハウスネットワーク(Global Lighthouse Network)」では、第4次産業革命をリードする世界で最も先進的な工場「ライトハウス(Lighthouse、灯台)」の認定が進んでおり、2021年6月時点では、世界で69の工場が認定されています。そしてそのうちの21は、中国に点在しています。これら中国のライトハウス工場から見えるトレンドを、本稿でまとめてみました。

中国にある21のライトハウス工場

ライトハウス工場は、第4次産業革命の模範として「ものづくり現場」の先駆者であるかに加え、「社会や環境へのインパクト」、「自動化による生産効率向上」、「人材育成や働き方」、「企業や業界の持続可能性」など幅広い観点から評価されます。

人工知能、ビッグデータ、IoT、ロボット、AR/VR/MR(拡張現実/仮想現実/複合現実)、デジタルツインといったデジタル技術を駆使して、ものづくりの現場およびサプライチェーンのプルプロセス(後工程引取)を刷新することにより、環境変化への迅速な対応、商品発売までの時間短縮、生産効率の飛躍的な向上、持続可能性への貢献などが期待されています。

WEFの公開資料によると、今まで認定された中国のライトハウス工場は、21工場です。ちなみに、ボッシュ(Bosch)と美的(Midea)は、それぞれ「2 lighthouses」と表記されています。

世界経済フォーラム認定「ライトハウス工場」一覧 (2021年6月時点)

世界経済フォーラム認定「ライトハウス工場」一覧 (2021年6月時点)

そこで、上の表にある色付きの工場を、次の通り一覧化してみました。2018年から順次認定されたライトハウス工場は、家電、自動車(部品含む)、電子製品、半導体、鉄鋼、産業機械、消費財などを製造する様々な分野に渡り、中国各地に点在しています。この中でも、半分程度は外資系が占めています。

中国にあるライトハウス工場一覧

中国にあるライトハウス工場一覧

これまでに、アパレル製造業界の代表として「アリババの迅犀(シュンシー)デジタル工場」、自動車製造業界「上汽大通(SAIC Maxus Automotive)の南京工場」、電子製品製造業界「フォックスコンのデジタル工場」、家電製造業界「美的集団のスマート工場」「ハイアール(Haier)のスマート工場」と各業界の代表的な事例を紹介しました。

中国企業がライトハウス工場に多く認定された背景

認定されているライトハウス工場は、国別に見ると、中国が比較的多い傾向にあります。それはなぜなのでしょうか。中国産業発展環境の時勢、および産業アップグレードの時流から捉えられると思います。

全体的な視点で中国製造業のSWOT分析を見てみましょう。簡単に分析すると、比較的に体系的な産業構造を持っているものの、貿易保護主義が台頭しているなかでハイエンド製造の底力が不足しており、産業全体のアップグレードが急務となっていると考えられます。

中国製造業のSWOT分析

中国製造業のSWOT分析

言い換えると、中国の製造業が厳しいビジネス環境のなかで勝ち抜くには、社会の需要を見据えた高度な生産効率と、強固なサプライチェーンを含めた産業全体のアップグレードが必要です。その活路の根幹にあるのは、最新のテクノロジーを生かしたデジタルトランスフォーメーション(DX, Digital Transformation)でしょう。消費者の個性化、納期の迅速化、生産の高度化など社会の需要はDXを牽引(PULL)すると同時に、人工知能、IoT、ビッグデータなど技術の成長は、DXを後押し(PUSH)しており、「相互作用の輪」が形成されています。

DX需要とDX技術の「相互作用」の輪

DX需要とDX技術の「相互作用」の輪

このDXを具現化したライトハウス工場のコンセプト及び認定活動が世界的にも認知されているため、DXを推進するために「ライトハウス工場の認定」を重要なマイルストーンとして目指すのは非常に有効的なものだと思われます。ライトハウス工場に認定されれば、工場のDXがよくできていて、ベストプラクティスが確立されていることを証明するものにもなります。

ライトハウス工場から見えた中国製造業のトレンド

ライトハウス工場は、最も先進的な工場として世の中の製造業の動きをありのままで捉えていると考えていいと思います。中国にあるライトハウス工場の取り組みから、以下の3つのトレンドが見えてきました。

1.C2Bビジネスモデルへの適応

C2Bビジネスモデルは、「Customer to Business」の略で、顧客・消費者側から企業・ビジネス側へ取引の条件を設定するビジネスモデルを指します。現在、消費の個性化に伴い、消費者のニーズに合わせて個性のある商品を少量ずつ生産する時代がやってきています。その中で、生産方式の対応も迫ってきているのです。ライトハウス工場の中でも、アリババのシュンシーデジタル工場、上汽大通の南京工場、ハイアールのスマート工場は、いずれもC2Bモデルへの適応が強く示されています。

C2Bビジネスモデルへのライトハウス工場の適応

C2Bビジネスモデルへのライトハウス工場の適応

C2Bビジネスモデルを実現するには、生産する前に、消費者の「生の声」を収集したり、製品のスペックを選択してもらったり、製品のデザインに参画してもらったりするチャネルやコミュニティなどを創り出す必要があります。

例えば自動車製造業の上汽大通(SAIC Maxus Automotive)の南京工場では、消費者はWEBまたはAPPの「カーコンフィギュレーター」を使って、価格を確認しながら好きなスタイル・部品・資材などを選定し、自分好みのマイカーを「デザイン」することができます。多彩多様な選択肢を組み合わせながら、自分にあった最適なものを創り出す仕組みとなります。

「カーコンフィギュレーター」のイメージ(出典:上汽大通)

「カーコンフィギュレーター」のイメージ(出典:上汽大通)

オーダー確定後、生産のフルプロセスにおける生産の進捗を追跡したりすることも消費者体験の一環として重視されています。個性化の社会潮流に合わせて、個性化へのフレキシブルな対応が今後もますます工場の運営に響いてゆくでしょう。

2.工場の無人化・運営自動化

中国のライトハウス工場は、人件費の高騰、作業の安全の強化、作業効率の高度化などを背景に、無人化が進んでいるように見受けられます。それぞれの工場でも、フォックスコンはライトオフファクトリー(Lights-off Factory)、宝山鋼鉄はダークファクトリー(Dark Factory)、ハイアールは無人工場(Unmanned Factory)などのコンセプトをがありますが、いずれも工場の無人化、工場の運営自動化を意味しています。

ライトハウス工場の無人化・運営自動化

ライトハウス工場の無人化・運営自動化

例えば、宝山鋼鉄は、人工知能、IoTなどの技術を使用して生産材料の情報追跡、場所特定、産業ロボットによる作業オペレーション、作業最適化を自動的に実施することにより、「三つの一律」で工場の無人化運営を実現しています。

「三つの一律」は、「工場現場の操作は一律コントロールセンターに集中する」、「危険作業のオペレーションは一律ロボットで担当する」、「運用監視は一律リモートで実行する」ことを指します。これにより、工場現場では24時間で絶えずに無人稼働を実現できています。

宝山鋼鉄社のダークファクトリーのイメージ(出典:宝山鋼鉄社)

宝山鋼鉄社のダークファクトリーのイメージ(出典:宝山鋼鉄社)

3.ベストプラクティスのサービス化

ライトハウス工場は、自社が試行錯誤を繰り返しながら構築していく中で得た構築や運営ノウハウが、大きな価値を持っています。中国では、ライトハウス工場が認定された企業は、ライトハウス工場の経営理念から、業務プロセス、技術アプローチ、実装システム、運営経験などを含めたベストプラクティスを社内だけではなく、外部にもサービスを提供するケースが増えてきています。

今年3月に青島ビール社の工場が世界でビール業界初のライトハウス工場として認定され、この工場で利用されているインダストリアル・インターネット・プラットフォームは、ハイアール(Haier)のスマート工場のCOSMOPlatです。これはハイアールのノウハウを他社に提供して成功した事例の一つです。

ライトハウス工場のベストプラクティスのサービス化

ライトハウス工場のベストプラクティスのサービス化

ベストプラクティスを提供するために、人材育成にも力を入れています。ハイアール、マイデア、フォックスコンなどの会社は、ライトハウス工場のノウハウを提供するための専門組織を立ち上げています。例えば、フォックスコンは、DXマネジメントプロ、DXテクノロジープロの育成を目指して、FII(Foxconn Industrial Internet社)ライトハウスアカデミー(FII Lighthouse Academy)を開設しています。ここでは、産業人工知能教育プラットフォーム、オンラインラーニング、インダストリアル・ビッグデータ・コンテスト、組織能力デジタル化研修、ライトハウス工場見学といった内容を提供しています。

FIIライトハウスアカデミーの人材育成体系

FIIライトハウスアカデミーの人材育成体系

それ以外に、積極的に人工知能・IoT・デジタルツインなどの最新テクノロジーの利活用、エンドツーエンドのフルサプライチェーンの構築、単一工場から複数工場のコラボレーションなどのトレンドが見受けられます。これは、製造業全体のレベルアップグレード、先端テクノロジーの利活用で延長線にある事象だと考えていいと思われます。

日本ではライトハウス工場について取り上げられることはまだまだ少ないですが、WEFの認定活動に伴い、今後は少しずつ広がっていくのではないでしょうか。ライトハウス工場の動向は、世の中の製造業の動きを一つの側面から捉える視点としてとても参考になります。今後も、適切なタイミングで皆様に紹介していきたいと考えています。

参考

・世界経済フォーラム報告書
 「Global Lighthouse Network: Insights from the Forefront of the Fourth Industrial Revolution

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唐 徳権 とう とくけん

唐 徳権 (とう とくけん)

イーパオディング株式会社代表取締役社長
北京璞華ロボット情報技術有限公司Founder &CEO

中国におけるロボット及びAI(人工知能)事業、日中間のビジネスコンサルティングに従事。ロボットやAI(人工知能)についての情報発信も積極的に行っている。日経クロストレンドでは「中国デジタル革命の深層」という連載を執筆中。
記事内容に関するお問い合わせは tang_dequan @ epaoding.com までご連絡ください。