6月27日、一般財団法人日中経済協会が主催する2019年度賛助会員セミナー「日中コンテンツビジネス~最新動向にみる課題と可能性~」(協力:一般財団法人デジタルコンテンツ協会、SBクラウド株式会社)が開催されました。
本セミナーでは、アリババ、テンセント、百度(バイドゥ)などのニューエコノミーの主力企業を軸とした多彩なコンテンツビジネスの展開が予想される中国のコンテンツ産業に着目し、専門家による解説と現場からの事例紹介により、関連市場や政策・規制の動向、事業化の課題、今後の可能性などが明らかになりました。
基調講演「日中コンテンツビジネス~最新動向にみる課題と可能性~」
最初に登壇したのは、電通や経済産業省などで日中エンタメ分野における企業・政府プロジェクトを多数経験してきた白鷗大学の青﨑智行教授。「急速に成長・拡大してきた中国コンテンツ産業はかつてない“大きな変革期”に突入しはじめています」と述べ、その現状を「1.市場、2.政策、3.課題と可能性」の3つの視点で分析しました。
「1.市場」に関しては、映画産業は2018年時点で中国が日本よりも4.36倍の市場規模であることをグラフにより提示。「2012年に中国が日本を追い抜いてから、両国の映画市場規模における差は広がり続けています」。
また、ゲーム分野は1.7倍、アニメ分野は3.7倍と、共に中国の市場規模が日本よりも大きいことを示しました。
「2.政策」の視点では、「中国コンテンツ産業が“政府から党主導へ”と変わってきていて、今後の動向を注視していく必要がある」と解説。
かつては政府下にあった新聞、出版、ゲーム、映画、テレビなどの領域が中国共産党の「中央宣伝部」へと移り、党のコントロール下に置かれるようになり、既に昨年からゲームタイトル審査の凍結・厳格化など大きな変化が現れているようです。
また、コンテンツ産業が海外に積極展開を進める“走出去”に加えて、シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの2領域の産業を活性化する“一帯一路”ともリンクし始めていることなどを説明しました。
「中国におけるインターネット空間も含めた言論・情報統制の強化に伴い、日本のコンテンツの買い控えが進んでいます。今後の政府と党の動向により注目する必要があります」と青﨑教授は語ります。
「3.課題と可能性」においては、これまでは日本が中国でコンテンツを展開する際、例えば映画輸出では「買い切り」がメインだったのに対して、韓国やインド映画など中国で「レベニューシェア」の契約を勝ち取っている事例もあることを挙げ、「今後は日本企業もレベニューシェアの交渉をしてみるといいかもしれません。なぜなら、これまで日本は本気でその交渉をしてこなかったからです」と提言。
また、中国人のユーザーインサイトを注視してこなかった傾向のある日本企業に対して、「主旋律」や「世代」などのキーワードを挙げ、これからは注目する必要があると説明しました。
青﨑 智行 氏(白鷗大学 経営学部 教授)
電通でマーケティング、メディア・コンテンツ等業務に従事した後、経済産業省商務情報政策局メディア・コンテンツ課課長補佐(国際展開支援政策担当)、
日中経済協会北京事務所コンテンツ産業室長、北京電通メディア統括センター資深総監等を務める。
日中両国エンタテインメント分野における企業・政府プロジェクトを多数経験。
編著に『コンテンツビジネスin 中国』。2015 年より現職。
「日中ビジネスにおけるAlibaba Cloudの機能と可能性」(SBクラウド株式会社)
続いて登壇したSB クラウド株式会社 ソリューションアーキテクトの吉村 真輝は、同社が日本での展開を進めているAlibaba CloudのマーケットシェアがIaaSとして世界で3位、中国のパブリッククラウドとしては1位であるとし、「現在、世界のネットユーザー数はアジアが大半を占めているため、アジア地域で強いAlibaba Cloudは今後もシェアを伸ばしていくでしょう」と説明。
そのうえで、日本企業の中国ビジネス展開を支援する「China Gateway」を進めていると述べました。
中国でのビジネス展開については「中国のビジネスは諸外国と比べて全く違うと考えていいもので、外資企業にとっては“難しい”状況にあります」とし、その理由の1つとして「ICP」登録申請の流れを挙げました。
中国でWebサイトを公開する際は、Alibaba Cloudなどのクラウド事業者を通して工信部にICP登録申請をする必要があり、加えて2017年にサイバーセキュリティ法が成立したことで公安部からのPSB番号の発行も義務付けられたことを説明。「法改正など、中国政府の動向はキャッチアップしておくことが重要」と語りました。
吉村 真輝(SBクラウド株式会社 ソリューションアーキテクト)
2019年1月、SBクラウド株式会社入社。Alibaba Cloud 公式トレーナーとして
日系企業の中国におけるクラウドサービス利用を数多く支援していることに加え、
日中ビジネスのスペシャリストとしての一面もあり、両国の最新事情や動向にも精通している。
また、JAIPA Cloud Conference 2019(https://cloudconference.jaipa.or.jp/)実行委員長も務めていている。
趣味はDJ。
「中国へ展開するための Web コンテンツの展開とゲームインフラの構築」(株式会社ビヨンド)
ここでAlibaba Cloudのパートナー企業が2社登場し、それぞれの事例を紹介。1社目のビヨンドは、中国向けビジネス展開におけるサーバー構築・運用保守から、クラウド型のWebサイト監視サービス・インバウンド向けネット予約サービスなど、さまざまなサービスを提供しています。
同社 技術営業部主任の大原裕也氏は、中国ビジネス展開におけるAlibaba Cloudの優位性について、「中国に簡単にサーバーを立てられることに加えて、サポート体制や日本円決済可能など、多くの点で優れています」と説明。
現在は自社で開発した日本国内向け高性能予約システム「EDISON」を、Alibaba Cloudを利用して中国で展開する構想を進めています。
大原裕也氏(株式会社ビヨンド 技術営業部 主任)
法人向けのネットワーク回線・グループウェアなどの IT 製品のセールスとしてキャリアをスタート。
その後、ホスティング・ハウジングのデータセンターサービス、SaaS / ASP 型 の SFA / CRM などの
クラウドサービスのプリセールス・カスタマーサポートを経験。現在は、ゲーム・EC・メディアなどの
Web サービスを展開する企業が利用するサーバー/クラウドの 24 時間 365 日の
運用保守・監視サービス提供をおこなっている。
「VisualOn と中国向けライブ配信における新たな価値提供について」
2社目のパートナー企業は、米国シリコンバレーに本社があるサードパーティーのプレイヤーベンダーであるVisualOn。同社 ジャパンセールスディレクター&カントリーマネージャーの半田寛之氏は同社が展開するするライブ配信技術について発表しました。
同社はこれから来る5G時代に向けて、複数の動画を1画面で見ることができるマルチストリーム再生技術を展開しているほか、「弊社の動画再生の分析ツール“VisualOn Analytics”と、SBクラウド様の動画配信サービスを組み合わせることで、日本企業が中国で動画配信をできるサービスなど、新たなサービス展開を検討中です」と話しました。
半田寛之氏(VisualOn,Inc. ジャパンセールスディレクター&カントリーマネージャー
組み込みソフトの上場ベンチャー企業にて海外営業を担当。その後、北欧企業の日本法人立ち上げや
ベンチャー企業のクラウドサービス立ち上げに携わる。
直近では、大手コミュニケーションサービス企業にてマーケティング・製品統括部長を担当。
2019 年より米国 Visual On, Inc のジャパンセールスディレクター兼カントリーマネージャーに就任。
テレビ東京が語る「中国におけるアニメ関連事業の展開」
最後に登壇したのは、今年開局55周年を迎えたテレビ東京に勤務する秋間眞良氏。現在は、海外市場での新たなビジネスモデルの企画立案・事業体制構築を担当する部署であるアニメ・ライツ本部 国際企画部の部長を務めていますが、以前は本部内でアニメ局に在籍し、様々な形態での番組構築に携わってきたといいます。
「2009年にアニメ局ができたのですが、最初に着手したのが当時悩まされていた海外の違法配信動画対策でした。秋間氏は中国ビジネスのノウハウを全く持たないまま2009年に当時の上司と上海へ渡り、違法配信を繰り返していた土豆(Tudou)を訪れて、正規ルートで日本の動画を配信するビジネスモデルを提案。
「違法配信をやめてと言っても絶対にやめないと分かっていたので、この案をもっていきました。それをきっかけに2011年には土豆と、さらに2016年にはYouku、iQIYI、bilibiliと配信の契約を結び、アニメの中国配信事業を拡大してきました」。
また、『トレインヒーロー』や『聖戦ケルベロス〜竜刻のファタリテ〜』など、中国企業と共同事業でアニメの制作の道も開拓してきており、「トレインヒーローはテレビアニメに限らず、映画も公開、グッズやオモチャも中国全土で販売しました」と語りました。
最近はオフラインの取り組みにもさらに力を入れており、2019年3月に上海でオープンした「NARUTOラーメンショップ」は、オープン初日に最大10時間待ちの行列ができるほど好評を得たようです。
秋間氏は「私たちも2009年に右も左もわからない状態で中国ビジネスをはじめましたが、とにかく“打席に立つ”ことが大切だと思います。リスクをとってやる経験が日本のコンテンツ業界のためになると信じているので、ぜひここにいる事業者のみなさんも私たちと一緒に失敗を恐れずに打席に立ってほしい」と聴講者へエールを送りました。
秋間 眞良 氏(株式会社テレビ東京 アニメ・ライツ本部 国際企画部 部長)
1994 年 4 月、株式会社テレビ東京に入社。スポーツ局、営業局を経て、2009 年4 月からアニメ局創設メンバーとして、アニメビジネスに携わる。
2010 年~中国との共同制作フル CG アニメーション番組『トレインヒーロー(中国名:高鉄英雄)』
プロジェクトに参画し、中国でのテレビ放送、劇場版の全国公開、玩具等マーチャンダイジング展開を実現。
その他、愛奇芸(iQIYI)や哔哩哔哩(bilibili)等の中国企業と国際製作委員会を組成するなど
様々なプロジェクトを経験。2018 年 6 月より現職。
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